キプロスヒメテナガコガネ Propomacrus cypriacus
昨年ヤフオクでペア標本が販売されているのを見つけたものの高価すぎて入手は無理だろうと諦めていたキプロスヒメテナガコガネだったが、ebayで販売されているのを見つけてすぐに飛びついた。オス単だがサイズは31mmでとても状態の良い標本である。
最初はトルコヒメテナガの小さな個体かなと思ってじっくりと観察したが、キプロス島から発信された活き虫を動画にしたYoutubeを確認して、キプロスヒメテナガコガネと確信した。
このキプロスヒメテナガコガネの学名は、Propomacrus
cypriacusで、大きな個体で体長は40mmくらいである。キプロス島にのみ生息する固有種で、現在は絶滅危惧種となっている。
古くはトルコヒメテナガコガネPropomacrus
bimucronatus(以下bimucronatus)と同一種とされていたが、キプロスの研究者により2002年にPropomacrus cypriacus(以下cypriacus)として記載された。
樹齢100年を越えるオークの大木などを好み、その樹洞にて繁殖しているが、森林伐採により絶滅の危機に瀕している。(他のテナガコガネと同様である。)
左からトルコ産bimucronatusオス36㎜、中央がギリシャ産bimucronatusオス28㎜、右がcypriacusオス31㎜である。
前胸の尖った部分はbimucronatusにそっくりだが、アームの先端形状が明らかに異なり、cypriacusについては大型の個体でも先端の突起が発達しない。メスは尻先が少し尖っており、簡単に雌雄判別が出来る。
2024年7月に公開された研究論文「DNA barcoding reveals a taxonomic fraud: Note on validity of Propomacrus muramotoae (Coleoptera, Scarabaeidae)」によると、亜種とされていたチベット、ブータン産のPropomacrus muramotoaeはDNAバーコーディングの解析によりbimucronatusと断定された。その論文はMuramotoaeの解析が主目的であったが、その中でbimucronatusとcypriacusについての分析結果が記載されており、bimucronatusは大きく2つのグループに分けられ、bimucronatusとcypriacusはDNAの配列データが異なるものとなっていることが確認された。
また先日入手したギリシャ中央マケドニアのbimucronatus(画像中央)は、広く流通しているトルコ産とは見た目にも異なり、もしかすると将来的に別亜種になる可能性があるのではと思えてしまう。
個人的な感想にしかなりませんが、昔トルコヒメテナガをたくさんブリードした経験があり、大小の個体を見てきたが、ここまで小型の成虫が羽化することはなかったし、見たこともない。
手持ちのテナガコレクションが充実してきた。
次はフジオカが欲しいところだが原産地の中国では保護種とされており、台湾でブリードされた個体であれば入手できるチャンスはあるかもしれない。入手し易さで言えばベトナムのバターレル、ヤンソニーであるが、他国に倣って絶滅危惧種や保護種になってしまうであろう未来は簡単に想像できる。価格も一番安いので今のうちに手に入れるべきだろう。
テナガコガネは3種の属に分類されるが、DNA鑑定までされた種は極一部で、産地別の違いまで踏み込んだ研究は進んでいないと思われる。実際にセラムドウナガではセラム島以外の島にも生息しており、各島によって外見上で細かな違いが見受けられる。多くのサンプルを集めてDNA鑑定を行うことが最も信頼性が高い亜種分けになるが、今となっては無理かもしれない。
Cheirotonus 属
Cheirotonus gestroi ゲストロテナガコガネ
Cheirotonus battareli バターレルテナガコガネ
Cheirotonus formosanus タイワンテナガコガネ
Cheirotonus peracanus マレーテナガコガネ
Cheirotonus fujiokai フジオカテナガコガネ *
Cheirotonus terunumai テルヌマテナガコガネ
Cheirotonus macleayii マクレイテナガコガネ
Cheirotonus parryii パリーテナガコガネ
Cheirotonus jansoni ヤンソンテナガコガネ
Cheirotonus jambar ヤンバルテナガコガネ *
Propomacrus 属
Propomacrus bimucronatus トルコヒメテナガコガネ
Propomacrus davidi ダヴィドヒメテナガコガネ
Propomacrus cypriacus キプロスヒメテナガコガネ
Euchirus 属
Euchirus longimanus クモテナガコガネ(セラムドウナガテナガコガネ)
Euchirus dupontianus セスジクモテナガコガネ(デュポンチャヌス)
ご存知のように、日本ではテナガコガネの活き虫の輸入や飼育が禁じられている。もう何十年も前だが、ビッダースで活き虫が活発に売買されていた頃が懐かしい。ヤンソニー、タイワン、ゲストロイ、デュポンチャヌス、セラムドウナガ、トルコヒメ、ダヴィドヒメテナガなどが普通に流通していて誰でも飼育が出来た。
1985年にヤンバルテナガが天然記念物になり、それを保護するための政策で2006年にテナガコガネ全般に特定外来生物に指定された。このタイミングで私は飼育を止めたが、それでも一部のマニアは売買を続けた者がおり逮捕者も出た。
よって良い子の皆さんは標本を集めるだけで我慢しましょう。
cheer up in Korea.IG@leekazuya
返信削除あなたの投稿を熱心に読みました。battalleri と gestroi を区別したい。 容易ではない。
返信削除Hi 벌레,
返信削除Yes, it is. I can't distinguish between the two either.
Donchan